新卒19歳の春、私は希望に満ちて社会人生活をスタートさせました。新しい環境、新しい仲間、新しい自分。すべてが輝いて見えました。しかし、その輝きは、ある日突然、音を立てて崩れ去ったのです。
「あのさ、ちょっと話があるんだけど…」
入社して半年が経った頃、直属の上司に呼び出されました。個室で差し出されたのは、小さな白いボトル。クエン酸でした。「最近、フロアで臭いが気になるって人が多くてね。これ、試してみない?」上司の言葉は穏やかでしたが、私の心臓は鷲掴みにされたかのようでした。その瞬間、頭の中は真っ白になり、全身から血の気が引いていくのを感じました。「臭い?私が?まさか…」信じたくない現実が、目の前に突きつけられたのです。
その日から、私の世界は一変しました。オフィスにいる間中、周囲の視線が私に向けられているような気がしてなりません。「あの人、臭いって噂になってるんじゃないか」「いつから、誰が、私のことを言っていたんだろう?」すれ違う同僚の小さな囁き声も、私への陰口に聞こえてなりませんでした。ランチタイムも、休憩時間も、誰かの視線を感じるたびに、心臓がバクバクと音を立て、手のひらに嫌な汗が滲みました。自分の脇から微かに香る酸っぱいような臭いに、何度も何度も袖口を嗅いでは、「やっぱり…」と絶望する日々。
「もうダメかもしれない…」
夜、一人暮らしの部屋で、私は声を上げて泣きました。入社前に買っておいた制汗剤も、ドラッグストアで勧められた消臭スプレーも、汗拭きシートも、すべてが無意味に思えました。クエン酸を脇に塗ってみましたが、一時的な効果しか感じられず、すぐにまたあの不快な臭いが戻ってくる。鏡に映る自分の顔は、日に日に自信を失い、生気の無い色をしていた。「なぜ私だけがこんな目に遭うんだろう?」「どうして誰も教えてくれなかったの?」後悔と、誰にも言えない孤独感が、私を深く深く沈めていきました。会社に行くのが怖くて、朝が来るたびに胃がキリキリと痛み、吐き気がしました。このままでは、大好きな仕事も、夢見ていた社会人生活も、すべてが台無しになってしまう。私には、もう会社に居場所がない。そう確信した時、私の心は完全に折れてしまいました。
しかし、そんな絶望の淵で、私はある決意をしました。「このままでは、本当に何もかも失ってしまう。もう、隠すのはやめよう。」インターネットで「ワキガ 治療 病院」と検索する指は震えていましたが、そこには私と同じように悩む多くの人の声と、具体的な解決策のヒントが溢れていました。
「バケツで雨漏りを受け止めるようなものだった」
これまでの私の対策は、まさに雨漏りした水滴をバケツで受け止めるようなものだったと気づいたのです。一時的に床が濡れるのを防いでも、屋根の穴は塞がれていない。いつかバケツがいっぱいになって溢れ出すように、私の心も限界を迎えていました。必要なのは、根本的な解決でした。
いくつかの病院のウェブサイトを読み込み、レビューを比較しました。初めてのことで不安でしたが、「もう一人で抱え込まない」と心に決め、勇気を出して予約の電話をかけました。受診当日、待合室では緊張で手汗が止まりませんでしたが、担当してくれた医師は私の話をじっくりと聞いてくれました。誰にも話せなかった悩みを打ち明けることができた時、心から安堵しました。医師は、ワキガのメカニズムや、治療法の選択肢について、一つ一つ丁寧に説明してくれました。ボトックス注射、切開手術、レーザー治療など、様々な方法があること、そしてそれぞれのメリット・デメリットを教えてもらい、自分に合った治療法を一緒に考えてくれました。
私は、医師と相談し、不安と期待が入り混じる中で治療を受けることを決めました。治療後、すぐに劇的な変化を感じたわけではありませんが、徐々に、あの不快な臭いが気にならなくなっていきました。そして何よりも大きかったのは、私の心の中から「臭い」という重荷が消え去ったことでした。
今では、職場での人間関係も以前のように良好です。周りの目を気にすることなく、仕事に集中できるようになり、笑顔も増えました。あの時、勇気を出して一歩踏み出し、専門家の力を借りて本当の原因に向き合ったからこそ、私は「新しい自分」として、再び輝く未来を取り戻すことができました。ワキガは、一人で抱え込むべき問題ではありません。あなたの悩みに寄り添い、共に解決の道を歩んでくれる専門家が必ずいます。どうか、その一歩を踏み出す勇気を持ってください。あなたの未来は、あなたが想像するよりもずっと明るいのですから。
