「また、咳き込まれた…」「くっさ、って聞こえた気がする…」。40代になり、職場での些細な反応に、僕は神経をすり減らす日々を送っています。まるで透明な壁に囲まれているように、人との距離を感じるたび、胸を締め付けられるような痛みが走ります。20代の頃、長年の悩みに終止符を打つべく、高額な費用をかけてワキガ手術(剪除法)を受けました。あの時の解放感は、今でも鮮明に覚えています。もう二度と、あの苦しみは味わわない。そう、固く誓ったはずでした。
しかし、ここ数年、再び周囲の目が気になり始めました。特に職場では、僕が通り過ぎた後に誰かが鼻をすすったり、小声で何かを囁いたりするのを聞くと、心臓が凍りつくような感覚に襲われます。最初は気のせいだと自分に言い聞かせました。年齢のせい? 加齢臭? しかし、ある日、休憩室で同僚が「なんか、また臭うな」と漏らしたのを聞いた瞬間、僕は絶望の淵に突き落とされました。「まさか、またこの苦しみが戻ってくるなんて……。あの高額な手術は一体何だったんだ?」。内なる声が、僕の心を掻きむしります。
勇気を振り絞って、手術を受けた病院に再診に行きました。しかし、医師の言葉は僕をさらに深く突き放しました。「検査の結果、特に問題はありません。臭いも確認できませんね」。その言葉は、まるで僕の悩みを幻だと決めつけるようでした。「俺がおかしいのか?」「彼らは嘘をついているのか?」──病院の診断と、職場の現実とのあまりにも大きな乖離に、僕は混乱し、誰にも相談できない孤独感に苛まれました。妻にさえ、この話を切り出す勇気がありません。もし「気のせいよ」と言われたら、僕は一体どうすればいいのか。
この「見えない敵」との戦いは、まるで霧の中を歩くようなものです。道は見えないのに、確実に足元は濡れていく。努力して手入れしたはずの庭に、また雑草が生い茂るように、一度解決したはずの悩みが、さらに根深く僕を蝕んでいくのです。このままでは、仕事にも集中できず、人間関係も壊れてしまう。自己嫌悪の渦に飲み込まれ、自信は地の底まで落ちていきました。
しかし、本当に解決策はないのでしょうか? 病院で「臭くない」と言われても、あなたが苦しんでいるなら、それは紛れもない現実です。その苦しみは、あなたの心が作り出した幻ではありません。一度の手術で終わらない、その根深い問題には、多角的な視点でのアプローチが必要です。セカンドオピニオンで別の専門医の意見を聞くこと、ワキガ以外の体臭や加齢臭の可能性も視野に入れること、食生活や生活習慣、ストレス管理、さらには衣類の選択や洗濯方法まで、あらゆる角度から原因を探る必要があります。そして何より、この見えない悪臭の呪縛から解放されるためには、一人で抱え込まず、真実と向き合う勇気を持つことが、真の解放への第一歩となるでしょう。
