「これでやっと、あの呪縛から解放される…」
そう信じていたのに、鏡に映る自分の脇から、またあの独特の臭いが漂ってくる。30代になった私、サキは、何度目かの絶望に膝から崩れ落ちそうになっていました。
初めてのワキガ手術は20代後半、吸引法でした。インターネットで「手軽に解決」という言葉に惹かれ、藁にもすがる思いで決断。術後しばらくは効果を感じ、「これでやっと、人目を気にせず生きられる」と、未来に光が差したようでした。しかし、数年後、汗ばむ季節が来るたびに、あの嫌な臭いが再び忍び寄ってきたのです。「まさか、再発…?」最初は気のせいだと思いたかった。でも、電車で隣に座った人が鼻をすすったり、職場の同僚がさりげなく距離を取ったりするたびに、現実を突きつけられました。
「何のために痛い思いをしたんだろう。何のためにあんな大金を払ったんだろう…」
その時の私は、まさに出口の見えないトンネルに閉じ込められた気分でした。再び手術を受けることを決意。今度は「より確実」と言われる剪除法を選びました。メスを入れることに恐怖はあったものの、「今度こそ!」と自分を奮い立たせました。術後の痛みは吸引法よりもずっと強く、腕を上げるたびに神経が引き裂かれるようでした。それでも、「これで終わり」と自分に言い聞かせ、耐えました。
しかし、その「終わり」は、またしても訪れませんでした。
数ヶ月後、やはり臭いがする。「嘘でしょ? こんなはずじゃ…!」
ある日、友人とカフェでおしゃべりしている最中、ふと友人が顔をしかめたのを見たとき、私の心は完全に折れました。「まだ臭いんだ…」「また、私だけがこんな思いをしている…」
もう、誰にも相談できませんでした。家族にも、友人にも、これ以上心配をかけたくない。それに、何度も失敗している自分を情けなく感じるばかりで、口を開くことさえ億劫になっていました。
「もうダメかもしれない…」「なぜ私だけが、こんなに苦しまなければいけないの?」
鏡を見るたびに、手術痕が痛々しく目に映ります。お金も時間も、そして何よりも心のエネルギーを全て使い果たしてしまった。「このまま、一生この臭いと、この後悔を抱えて生きていくしかないのだろうか?」そんな絶望感が、私を深く深く沈めていきました。
ワキガの悩みは、まるで庭に生い茂る雑草に似ています。表面だけを刈り取っても、根が残っていればまた生えてきます。手術は雑草を刈り取る行為に似ていますが、土壌(体質や生活習慣)や種(汗腺の活動、常在菌)に目を向けなければ、何度刈り取ってもキリがありません。本当に必要なのは、土壌を耕し、健全な植物が育つ環境を整えること。そうすれば、雑草は自然と減り、心穏やかな庭が手に入ります。
この経験を通して、私は一つの大切なことに気づかされました。完璧な「無臭」を手に入れることだけが、本当に目指すべきゴールではないのかもしれない、と。
手術だけが全てではない?ワキガ再発の「根っこ」に目を向ける
ワキガの臭いの原因は、アポクリン汗腺から分泌される汗が皮膚の常在菌によって分解されることにあります。手術は物理的に汗腺を除去しますが、体質や生活習慣、精神状態、さらには皮膚のマイクロバイオーム(常在菌のバランス)など、複合的な要因が絡み合っている場合も少なくありません。
「手術で失敗したから、もう終わり」ではありません。むしろ、それは新たな自分と向き合うための、重要なターニングポイントになり得るのです。
絶望の淵から抜け出すための3つのステップ
1. 心のケアを最優先に
何度も手術に失敗し、後悔と自己嫌悪に苛まれているなら、まずは心の状態を安定させることが何よりも重要です。信頼できる友人や家族に打ち明ける、あるいは専門のカウンセリングを受けることも一つの手です。一人で抱え込まず、共感してくれる存在を見つけることで、孤独感は大きく和らぎます。あなたの感情は、決して異常なものではありません。
2. 自分の体と向き合う「セルフケア」の再構築
手術以外の多角的なアプローチを試す時期かもしれません。食生活の見直し(動物性脂肪や刺激物の摂取を控える)、ストレス軽減のためのリラックス法、適度な運動、そして適切なデオドラント製品の選択など、日々のセルフケアを丁寧に見つめ直してみましょう。これらは即効性のある解決策ではないかもしれませんが、長期的に体質を整え、臭いの根本原因にアプローチする上で非常に有効です。
3. 完璧主義を手放し、「共存」という新たな視点を持つ
「完璧な無臭」を目指すことは、時に自分を追い詰める結果につながります。ワキガは病気ではなく体質の一つであり、誰にでも体臭はあります。大切なのは、臭いを「ゼロ」にすることではなく、「気にならない程度に抑える」こと、そして何よりも「自分自身を受け入れる」ことです。
「臭い」という外的な問題にばかり目を向けていたサキさんは、やがて自分の内面と深く向き合うようになりました。完璧な自分を求めすぎず、多少の不完全さも受け入れること。「私だけの輝きを見つけよう」と、前向きな気持ちが芽生え始めたのです。
失敗は終わりじゃない、新たな始まりのサイン
ワキガ手術の失敗は、決してあなたの人生の失敗ではありません。それは、あなたがこれまで気づかなかった、もっと大切なこと、自分らしい生き方を見つけるための「学び」の機会です。
完璧な体なんて幻想です。大切なのは、自分自身を慈しみ、心穏やかに、前向きに生きること。もし今、あなたが絶望の淵にいるなら、どうか一人で抱え込まないでください。この経験は、きっとあなたを強くし、より豊かな人生へと導くはずです。
